「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!」
走る。
遠く、出来るだけ遠くへ。
「ハァ・・・!ハァ・・・!ハァ・・・!」
走る、走る。
足が鉛の様に重い。
それでも、前に、前に、足を投げ出す。
「ハァ・・・!!ハァ・・・!!ぅぅ・・・ハァ・・・!!」
走る、走る、走る。
心臓が熱く、煩い。
次の瞬間には破れてしまうのではないかと思うほどに脈打っている。
「ぅぁっ・・・ぁぁあああ!!」
それでも、走る。
前へ、前へ、前へ。
とにかく前へ。
決して後ろを振り向かずに。
一度でも振り向いてしまえば、足が止まってしまうから。
『・・・逃げなさい!遠くへ・・・!出来るだけ遠くへ!!』
そう叫ぶ母の顔が頭から離れない。
涙がポロポロと零れ落ちる。
「ママ・・・ママ・・・ゴホッ・・・ケホッ!」
喉がヒリヒリと痛む。
一体どれほど走っただろうか。
「・・・ッ・・・あぅッ・・・!」
足が思うように上がらず、木の根に引っ掛けて転んでしまう。
もうすでに体の疲労は限界を超えていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
泥だらけになることも厭わず、仰向けになり身体全体で肺に酸素を送り込む。
一度止まってしまった足は、しばらく動きそうにもなかった。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
どれだけの時間が経っただろう。
ようやく呼吸が整ってくる。
そうしてようやく身体を起こすが、疲労で足は言う事を聞かなかった。
「あ・・・は、は・・・足、動かないや・・・」
足を引き摺って近くの大木に向かい、背を預けて座り込む。
「・・・ケホッ」
呼吸だけは多少楽にはなったものの、肺へと向かう空気は喉に引っかかりいまだにヒューヒューと音を立てる。
・・・どこまで、来たのだろうか。
空を見上げると、眩しいほどの星が瞬いて見えた。
見渡すと、辺り一面深い森の中のようだ。
「・・・ここ・・・そっか。・・・私、森の中まで来ちゃったんだ・・・」
真宵の森。
皇国で立ち入り禁止地区に指定されている森だ。
曰く、入ったら最後、二度と出られない。
曰く、近づいただけでも卒倒する。
曰く、バケモノが住んでいる・・・。
そんな信憑性がありそうなものから眉唾物まで様々な曰くが付いている森。
本来であれば近づくことすら厭う場所だ。
でも・・・と思う。
ここまで来れば・・・。
しかしそれも分からない。
一体どこまで逃げればいいのか、何から逃げればいいのか。
「・・・ぁぁ・・・」
急激に、眠気が襲ってくる。
抗えないほどの強烈な眠気だ。
視界がぼやけていき、自分の意思に反して瞼は閉じようとしている。
と、そこに。
大きな、目の前から大きな影が迫ってくるのが見えた。
グルル・・・と喉を鳴らし、私の元へと近づいてくる。
巨大な、オオカミだ。
(・・・あ、あ・・・)
しかし私には、もうすでに動き出す力も、逃げ出す気力も無くなってしまっていた。
(せっかく・・・ここまで、逃げたのに・・・なぁ)
虚ろな視界が、涙でさらにぼやけていく。
(・・・ごめんね・・・ママ・・・)
抵抗することもできず、瞼は完全に閉じていく。
瞳に溜まった涙が零れて溢れ出す。
今から迎えるであろう未来の結果を、私はすでに受け入れてしまっていた。
ゆっくりと、体全体から力が抜けていき・・・そうして私は、意識を、手放した。
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